> しむかっぷの鹿肉はなぜ美味い?
 しむかっぷの鹿肉はなぜ美味い?
エゾシカ
こちらを警戒して見つめるエゾシカの母子(門間敬行氏撮影)


 北海道全域に生息しているエゾシカ。近年、農業の機械化や牧草地の広がり、天敵の不在などさまざまな要因で爆発的に増え、農業の被害も深刻化している。このエゾシカ、基本的には北海道中どこのシカも生物学的には同じはずだ。では占冠のエゾ鹿が特に美味いと村に暮らす私たちが感じているのはどうしてだろうか。

 それには、いわゆる農作物であれば生産者にあたる「猟師」の存在が大きくかかわっている。猟師の名前は高橋勝美。斜里町出身で昭和58年に縁あって占冠村に移り住んだ。もともと狩猟をやっていたわけではなく、釣りを趣味としていたが、獲物を狙って自然に挑むという意味ではその延長線上に狩猟があり、必然的にこの道にたどり着いたといえる。

 高橋に話を聞くとまずハンティングが趣味の猟師とは根本的に違うことがよくわかる。ハンティングを楽しみとしている猟師は、大きな角をつけたオスの鹿を撃ちたがる。エゾシカのオスは4歳を超えると角が立派になり、体も大きなものでは130kgにもなる。大きな獲物をしとめたいというのはハンターにとって当然といえば当然の欲望だが、高橋はこのような大きな鹿はめったに撃たない。理由は「美味しくないから」だ。大きな鹿は肉の量は多いが、肉は硬く、繁殖期には臭いも強くなる。「命をいただくのだから、隅々までできるかぎりきれいに美味しく食べてあげたい。」これが高橋の祈りにも似た狩猟のスタイルだ。ではどのような鹿が美味しいのか。成熟したばかりの若いメス鹿が肉も柔らかく締まっていて美味しいというが、一律ではなく毛並みなどをよく見て決めるのだという。また、撃てる距離だとしても、車ですばやく回収し解体場へ運ぶことができるかどうかも重要な判断材料になる。

 そして何より重要なのはクリーンキル、すなわち苦しみを与えずに即死させることである。そのためには狙った獲物の頭部を一発で撃ち抜く銃の技術の正確さが問われる。即死せず苦しんで死んだ鹿は体温があがり肉の質が落ちる。また、内臓を打ち抜いてしまうと肉に臭みが移ってしまう。そうして即死した鹿の首の動脈を切って、まだ動いている心臓の力で血抜きをするのだ。この血抜きのスピードと、内臓をできるだけ早く体から出し、毛皮を剥いで肉の温度を下げることが美味しいシカ肉とそうでないシカ肉の大きな分かれ目になるのだ。さらに、死後硬直による肉の縮みを防ぐため半身にして骨はつけたままの状態で1日置き十分に冷やしてから、翌日丁寧に解体していくのだ。こうして解体された1頭のエゾシカからは、平均してロースが3kg、フィレが1kg、モモが10kg、それ以外の肉が6kgとれる。それ以外にもアバラ骨についたスペアリブや、心臓、レバーなどもとてもおいしい。

 こうして、撃つ前から美味しい肉を得るために考えつくされた高橋のエゾ鹿肉は食べるものをその都度驚かせる力がある。最も驚くのが昔近所の猟師からもらった臭いシカ肉を苦労して食べた経験のある人で、とても同じ動物の肉とは思えないという。また初めて食べる層にはまったく違和感のないヘルシーな食材として人気が出てきている。

 ところで、野生の動物を獲って食べるということに違和感のある方もいるだろう。別にシカを食べなくても、店に行けば肉はたくさんあるのに、という声も聞こえてくる。しかし、牛や豚、鶏を含むほとんどの家畜が海外からの穀物を飼料として育っているのは周知の事実である。海外の水を使って育てた穀物によって得られた肉を食べることは、本当の意味で地産地消とはいえない。もちろんそれらの肉を完全に否定するものではないし、私も食べているのだが、これらと比べることで、一時養鹿(囲い罠で捕らえて一時的に飼料などを与えて飼育し、屠殺して出荷するエゾ鹿)していない野生のエゾシカ肉は太陽と水と森が育てた自然エネルギーで100%出来ている素晴らしい食材であることが浮かび上がる。シカ肉は狩猟のためにわずかに石油エネルギーが使われるだけの、もっとも環境に良い動物性タンパク質である。それに加え、脂肪が少なく鉄分などのミネラルを多く含む優れた肉なのだ。(社団法人エゾシカ協会・岡本匡代博士エゾシカの栄養参照)しかも美味しいとなれば、これを地域に住む人間や地域を訪れた人間が食べない手はない。

 占冠でも高橋勝美クオリティのエゾシカ肉はそれほど多く流通している訳ではない。もちろん高橋ひとりで獲れる頭数が限られているためだ。しかしながら影響を受けた猟師がそれに近づけるために努力を続けているし、徐々にこのクオリティの肉が道の駅やその他の飲食店でメニュー化されはじめている。しかしそれも一律にレシピを決めるようなつまらないキャンペ-ン食ではなく、まずは地域の住民がその美味さに感動し、どうすればこの感動を地域を訪れてくれた人々にも分け与えることが出来るだろうかという事を考え、楽しみながらじわじわと進めているのだ。占冠村では約4000年前のエゾシカ猟跡の遺跡が発掘されている。つまりこの地域では縄文時代から鹿肉が食べられていたのだ。しかし鹿の激減などもあり、一度失われた食文化はこうして時間をかけて再び地域に根付いていくと私たちは考えているのだ。(文責:山本敬介・無断転載を禁ずる)



高橋勝美さん
高橋勝美氏と高橋ブランドのシカ肉を指す森のかりうどロゴ
森のかりうどHP
エゾシカのタタキ
赤身がすばらしいエゾシカのタタキ。赤いのはオンコの実

しむかっぷの美味しい手料理は…しむかっぷ手料理図鑑DBで(今後どんどん増やしていきます)
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